視覚的手がかりのみでなく、聴覚的手がかりによっても物体(音源)のサイズを知覚できる可能性が近年見出されている。本研究の目的は、「音の長さや基本周波数によってサイズ知覚の精度はどのように異なってくるのか」という、聴覚系における音源のサイズ知覚の時間特性について検討することである。さらに、その特性を支配する時間的および音響的要因を明らかにすることにより、聴覚系におけるサイズ情報処理のより詳細な特性およびそのメカニズムを明らかにする。 我々がこれまで行った聴覚心理実験では、有声母音と無声母音の話者サイズ知覚において同様の時間特性があることが示唆された。これまでの実験では、防音室内という静かな環境で実験刺激が提示されていた。しかし、実環境のような、さまざまな音が混在しているような状況下では異なる結果となる可能性が考えられる。すなわち、無声母音のような、音源の知覚イメージが常に微細に変動して不明瞭な音は、背景音との区別をつけることが難しく、話者サイズ弁別の精度および時間特性が有声音とは異なることが予想される。そこで本年度は、背景雑音を付加し、より実環境に近い聴取条件下で有声母音および無声母音のサイズ知覚の時間特性を測定した。その結果、有声母音の話者サイズ弁別においては背景雑音の有無による弁別精度の違いは見られなかった。一方、無声母音の場合、話者サイズの弁別成績に個人差が見られた。すなわち、32ms以上の母音の持続時間では有声母音の場合と同等の弁別閾を示した被験者もいれば、16~256msの全ての持続時間条件において話者サイズの弁別が出来なくなる被験者も存在した。今後、さらに多くの被験者に対して弁別データを測定し、サイズ弁別における母音の持続時間の依存性について検討する必要がある。
|