近年の研究により、視覚的手がかりのみでなく聴覚的手がかりによっても物体(音源)のサイズを知覚できる可能性が見出されている。本研究では、聴覚系におけるサイズ情報処理のより詳細な特性およびそのメカニズムを明らかにする。今年度は、昨年度に引き続き「音の長さや基本周波数によってサイズ知覚の精度はどのように異なってくるのか」という、サイズ知覚の時間特性について検討した。 母音のスペクトル包絡を周波数軸上で圧縮・伸長させた合成母音に対して話者サイズ弁別実験を行った。その結果、16msの母音刺激に対する話者サイズ弁別閾に比べて32msの母音刺激で弁別閾が有意に低下した。32ms以上の母音刺激での弁別閾については、一定の値または持続時間の増加に従って緩やかに低下する傾向を示した。これらの傾向は、母音刺激の周期性の有無に関わらず示された。また、基本周波数125Hzと250Hzの母音刺激に対するサイズ弁別閾を刺激波形のサイクル数を関数として比較した結果、8サイクル以上において両基本周波数条件で同じ傾向を示し、16サイクルで一定値に漸近した。この結果により、聴覚系が30ms付近の積分の時間窓を用いてサイズ情報を分離抽出する可能性が示唆された。 さらに今年度は、サイズ弁別精度と聴覚系でのサイズ情報正規化との関連についても検討した。上記の弁別実験で用いた母音刺激(標準刺激)に対して母音同定実験を行った。その結果、母音同定成績についても16msの持続時間の場合に同定成績の劣化が確認されるなど、サイズ弁別と同様の持続時間依存性が示された。この結果により、サイズ情報の分離抽出(サイズ知覚)と正規化(母音認識)が同じ時間的な側面をもつ可能性が示された。
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