平成23年度は戦後の寄せ場を中心とした都市下層をめぐる資料を収集した。そして、現代日本の路上にとどまる野宿者の多層的な包摂を課題として設定したうえでその契機を探るべく、野宿者を含めた戦後の日本史におけるさまざまな都市下層を事例に彼らと他者との関係の多用な現れを検討した。具体的には失業対策事業を担当する労務管理員による「にこよん労働者」の「のぞき」管理、1970年代日雇労働者運動、あるいは1990年代からの野宿者支援に注目し、<アサイラム化>の力と「第二次的調整secondary adjustments」(ゴフマン 1961)のなかでいかにして残余が生成されるのか、それに伴い都市下層と他者との関係性の位相がどのような変化をたどったのかを検討した。この成果の中間報告は日本文化人類学会で報告した。 また、申請者は2000年から2007年まで名古屋・大阪において野宿者を支援する団体に参与しながら、野宿者と支援者の関係性、当事者運動について社会学的に考察してきた。それらの参与観察の経験を振り返るなかで、現場と調査者がつながる社会学的モノグラフ・調査法とはどのようなものかを考察した。このことは、こうした参与観察の経験の再帰的な記述が、現場の歴史(社会史)や、現場における課題とどのように交差していくのかを考察することでもあった。その成果は、『はじめての参与観察』(ナカニシヤ出版)として出版した。 また、前年度からの継続調査として、「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」を中心とした「野宿者授業」の聞取りを予定していたが、熊本調査において、ある公園の野宿者と近隣の子どもの関係性について考察するために、野宿者への聞取りを試みた。この成果は『包摂と排除の人類学』(内藤直樹・山北輝裕編:近刊)に収められている。
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