本年度は、グローバル市民社会論とグローバル・ジャスティス運動の理論と進展について、既存のNGOならびにカトリック教会内部でのグローバル・ジャスティス運動の機運とメカニズムを把握すべく調査等を行い、多くの成果を上げた。一次資料の収集と聞き取り調査を組み合わせたフィールド調査の対象として、本研究の特色の一つであるグローバル・ジャスティス運動の担い手たるグローバル市民社会としてのキリスト教界の動態を把握すべく、とくにローマ・カトリック教会による社会正義への取り組みを明らかにするために、本年度はヴァチカン市国のローマ法王庁にて、それらに中心的な役割を果たしたナイジェリア出身のフランシス・アリンゼ司教枢機卿(Cardinal Francis A.Arinze)をはじめ、教皇直属の評議会である開発援助促進評議会(Cor Unum)、正義と平和評議会、諸宗教対話評議会の各責任者ならびに担当者への調査と資料収集に成功した。とくにカトリックの宗教組織による開発援助のメカニズムについて、その原点となったビアフラ紛争下での人道支援の背景から現在までの重債務救済と人道支援への歴史的文脈を明らかにするとともに、既存の開発型NGOが陥りがちだった運営資金問題を回避する知見を獲得した。また、継続して英仏日で開発NGOと類縁集団のフィールドワークを行った。今年度は国際学会も含め3つの学会で報告を行う機会を得たとともに、グローバル・ジャスティス運動による国際規範形成の影響力と多様な性質をとらえつつ類縁集団とフラッシュモブによる政治への接続について理論化した論文と図書の刊行に成功し、研究計画以上の成果を上げた。くわえて、上智大学グローバルコンサーン研究所シンポジウムとCS放送局朝日ニュースター「ニュースの深層」にて、公共性と類縁集団による規範変容的文化について報告する機会に恵まれた。
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