本年度は、グローバル市民社会論とグローバル・ジャスティス運動の理論と進展について、ヴェネチアビエンナーレでの「アラブの春」にかんする美術家アハメッド・バショーニーによる政治表現をめぐるワークショップならびに、オキュパイ・ウォールストリートのフィールドワークによりグローバル・ジャスティス運動の機運とメカニズムを把握すべく調査等を行うことで、対象となる政府への「カウンター・スペクタクル」(ギー・ドゥボール)として公共空間たる広場の役割を強調するグローバル・ジャスティス運動の近年の特徴を明らかにするなど多くの成果を上げた。 とくに本年度は一次資料の収集と聞き取り調査を組み合わせたグローバル・ジャスティス運動の現在にかんするフィールド調査の対象とした。本研究の特色の一つであるグローバル・ジャスティス運動の担い手たる類縁集団ベースでの、インターネット上のSNSを最大限有効活用した今日の社会運動(申請者は「社会運動のクラウド化」)を把握すべく、とくにオキュパイ・ウォールストリートの運営と組織構造、そしてそれらが掲げるグローバル・ジャスティス運動への取り組みを明らかにするために、本年度はそれらの参与観察により組織化のメカニズムについて、「社会運動のクラウド化」によって可能なった政治表現にかんする知見を獲得した。また、継続して英仏日で開発NGOと類縁集団のフィールドワークを行い、類縁集団ベースのグローバル・ジャスティス運動との違いも明確化した。今年度は国際学会も含め3つの学会で報告を行う機会を得たとともにグローバル・ジャスティス運動による国際規範形成の影響力と多様な性質をとらえつつ類縁集団と非暴力力直接行動による政治への接続について理論化した論文と図書の刊行に成功し、研究計画以上の成果を上げた。なお、同成果の一部は、来年度にNHKブックスと法政大学出版局より単著を刊行予定である。
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