本研究の最終目標は、フェアトレード運動と有機農業を実践する小農組合の事例研究を通じて、環境保全と貧困削減の「手段・目的」関係の理論構築を試みることである。初年度は、まず文献サーベイと過去に研究代表者が実施した現地調査結果の分析に基づき、生産者(労働者を含む)、購入者、仲介業者という異なるアクターの相互作用によって、フェアトレード運動と有機農業を取り入れたグローバル・バリュー・チェーンが形成されていく過程の理論化を行なった。考察結果の一部は、年度内に国際開発学会全国大会等で発表するとともに、次年度に学会発表を予定している論稿(題名:Three contesting perspectives of ethical global value chains)としてまとめた。次に、新たな事例研究として、2007年にフェアトレード認証を取得し、インド・アンドラプラデシュ州で綿花の有機栽培に取り組む小農組合を対象に、予備調査(約1週間)、及び本格調査(約1か月間)を実施した。現地調査では、組合員の綿花及びその他の作物の生産体系(作物・種子の選択、栽培面積、投入財の種類・量の決定、等)がどのような要因によってどのように影響を受けるか、という点に重点を置いて聞き取り調査により一次データを収集した。並行して、比較対象として同じ村落で同組合に属していない農民を選び、同様の聞き取り調査を行なった。本調査の結果から、フェアトレードと有機農業に参画する農民と参画しない農民の生計における差異、及びそのような差異を生みだす要因を仮説として抽出するために分析を進めている。同時に、次年度に調査を予定している別の事例(フィリピンのバナナまたはサトウキビ生産者)との比較考察のための枠組みを策定中である。
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