本研究では、ネパールでの現地調査を通して、貧困削減や社会問題の解決に取り組む途上国の社会運動主体および活動資源の調達方法、同方法を採用した社会的背景を明らかにすることを目的とした。特に、NGOの株式会社部門設立とそれによる活動資金の創出に注目し、(1)近年のグローバル化による民=市場の台頭による官、民、市民領域のボーダーレス化という点から途上国における官、民、市民の関係を再考し、欧米・先進国モデルの市民社会論、社会運動論を批判的に検討すること、(2)3領域の接近が顕著にみられる途上国の開発援助領域の分析結果に依拠して、二国間援助機関や国際NGO、現地NGOに対して、社会問題の解決を目指す変革主体にとって有用な制度的環境とは何かを提示することを目的とした。 今年度は、(1)先行研究の検討、(2)社会福祉協議会登録NGOについてのデータ収集、(3)ネパールのNGOの資金調達の現状を理解するための質問紙調査を実施した。(1)では、社会運動論、アングロサクソン型市民社会論を批判的に検討し、(a)NGOの活動形態は、政治的スペース(規制)、経済的スペース(需要)だけでなく、彼らが動員可能な資源によって決まる。(b)南アジア地域でみられるNGO企業体や途上国でみられる「社会的企業」は、持続可能なモデルの一形態であるという視点を導いた。(2)については、社会福祉協議会より登録NGOの数、活動領域についてのデータの提供を受けた。(3)については、年度内にネパール全体の16%にあたる450団体への質問紙の配布を実施した。現時点の分析では、多くのNGOがパートナーシップをもつ他のNGOや二国間援助機関、国際援助機関からの資金提供に依存している。活動がドナーの動向に左右されやすいという点が明らかになった。これらのデータは、ネパールにおけるNGOの資金動員源の動向を表すデータとして使用するとともに、特徴的な活動形態をもつ(現時点で)3つの活動体の生じた背景を示すものとして位置付けられる。
|