研究概要 |
本年度は、ロサンゼルスの永住・駐在の日本人家族10軒に対してインタビュー調査を実施した。そのうち1軒は新規の調査対象者であるが、9軒は4年前に調査対象とした家族であり、当時4,5年生の子どもたちが8、9年生に成長していた。追跡インタビューの結果からは、4年前に3パターンあったエスニックアイデンティティが、2パターンに両極化する傾向があるということが見出された。具体的には、文化境界の曖昧な「トランスナショナル・アイデンティティ」を実践する子どもたちが減り、「日系アメリカ人」もしくは「正統な日本人」アイデンティティのどちらかに分かれるという現象がみられた。「トランスナショナル・アイデンティティ」を実践する子どもの中には、日本人同輩集団との距離をとる上で葛藤を抱えている者も見出され、このことはアイデンティティと仲間集団が固定化し、ホスト社会の同化圧力が強まってくる中学高校段階において、「国や文化を超えるアイデンティティ」を維持することの難しさを示唆していると考えられる。また、今回の調査では、アメリカに生まれ育った子どもたちの中に日本の高校大学を選択する者もみられ、そうした子どもたちのアイデンティティや将来展望について今後検討を重ねていきたい。 以上の調査内容はスウェーデンで行われた世界社会学会で発表し、それをもとに執筆した論文を英文ジャーナルに投稿した。また、ロサンゼルスの公立学校における公正さの在り方に焦点化した考察を、異文化間教育学会の年次大会で発表し、それをもとに執筆した日本語論文が『異文化間教育学』に今年度掲載予定である。そのほか、ロサンゼルスの日本人家庭の教育戦略について、ロンドン大学の機関紙に原稿を発表した。
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