本年度は大別して3つの調査研究を行った。第一にコスモポリタニズムに関する理論研究を社会学の分野を中心に概観し、トランスナショナリズムやグローバリゼーションといった概念との関連性について整理した。また、日本における近年の「グローバル人材」政策をコスモポリタニズムという視点から批判的に検討した。第二に、これまでロサンゼルスにおいて収集した参与観察やインタビューデータを、「コスモポリタンな日本人」の形成という視点から分析した。その結果、トランスナショナルな社会構造の中で、ロサンゼルスに生活する日本人の子どもたちの間には「国境を越える心性(トランスナショナル・ハビトゥス)」「柔軟性」「社交性」といった能力が、重層的なアイデンティティの萌芽とともに形成されていることを明らかにした。第三に、ロサンゼルスから帰国した家族10件の追跡インタビューを行った。ロサンゼルスで培われた重層的アイデンティティやコスモポリタンな能力は維持される傾向にあるが、その程度は学校環境によって大きく影響されることを考察した。 以上の調査内容を日本教育社会学会と異文化間教育学会で口頭発表した。また、帰国後の子どもたちの適応戦略について英語論文を執筆し、本の一章に収録された。さらに<コスモポリタンな日本人性>と親の教育戦略に関する英語論文が、海外の学術雑誌に採択されて近刊予定である。
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