申請者の研究課題では、ある福祉国家では市民権とニーズに応じてサービスの給付をうける普遍主義的社会サービスが発展し、他の福祉国家では拠出に応じて給付を受ける社会保険型の現金給付プログラムに社会支出が集中しているのは何故か、という問いの解明に取り組んだ。本年度の研究では、質的および量的アプローチから次の二つの点を明らかにした。まず、第一に、福祉国家の発展段階では、選挙制度が政治アクターに与えるインセンティブ構造の違いが普遍主義的な公的高齢者ケア政策の発展度合いに影響してきたことを、スウェーデン、日本、アメリカ合衆国の公的介護政策の政治過程を追った質的ケーススタディにより明らかにした。また、上記の質的研究のためにストックホルムにて現地調査を行い、王立委員会報告書などの政策文書を広範に収集することができた。第二に、福祉国家の再編期では、脱工業社会化により顕在化してきた脱物質的価値の台頭とそれへの反動からなる「社会的価値」軸上の政党間対立と、政策決定に合意の必要な政治アクターである「拒否権プレーヤー」の編成のあり方が、主に普遍主義的サービスにより構成される「新しい社会的リスク」向け社会政策の動向に影響していることを、計量分析の手法により明らかにした。具体的には、OECDの社会支出データベースを従属変数に用い、再分配軸と社会的価値軸からなる二次元政党競争空間上の政党の政策位置や、拒否権プレーヤー間の政策距離を独立変数とした重回帰分析を行い、「左派-リバタリアン」政権は「新しい社会的リスク」向け支出の拡大に寄与し、拒否権プレーヤー間の政策的距離の拡大はそうした支出の拡大を抑制することを明らかにした。
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