本研究の目的は、経済格差の拡大が、有権者の知識・態度を通じて再分配政策にどのような影響を与えるかを明らかにすることにある。先進民主主義諸国の間で再分配される金額が著しく異なる理由を、有権者というミクロなレベルでの分析を通じて理解することを目指している。そのために、政治経済学に基づく数理モデルを提示し、そのモデルをOECDに加盟している各国の世論調査データによって統計的に検証するという手順で研究を進める。2010年度は以下の活動を行った。 (1)必要なデータの収集作業を行った。各国のデータ保有者に日本からコンタクトを取り、データを譲ってもらった。また、必要に応じて海外まで出向き、直接データを回収した。(2)集めた各国の調査を1つの分析可能なデータセットにまとめる作業を行った。各国ごと、年代ごとに質問の仕方や変数の値などに違いが見られたため、基準を統一し、1つのデータセットとして扱えるよう整理した。(3)経済格差と再分配政策の関係を示すモデルを構築した。このモデルは、低所得層、中産層、富裕層に属する人々がそれぞれ自らの相対的位置をどのように認識するかによって、政治的連合の組み方が変わることを示す。(4)収集したデータを用いて、提示したモデルを検証する作業に着手した。分析にあたっては、個票でありかつ国ごとに集められたというデータの特性を捉えるため、マルチ・レベル分析の手法を採用した。現在、2011年4月に開催される英国政治学会の研究大会ならびに同年5月に開催される日本選挙学会の研究大会で研究成果を報告するために研究を推進している。
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