「権利問題」と「非分割財の確率的配分問題」と呼ばれる資源配分問題を中心に分析を行なった。前者は、倒産した企業の資産を(請求権の大きさが異なる)債権者にどのように配分するべきかという問題や、政府が徴収する税金を(所得が異なる)人々からどのように徴収するべきかという問題を含んでおり、伝統的に経済学において分析が行なわれてきた。後者は、分割することができない、あるいは分割することが不適切な財を、確率的にどのように分配するかという問題であり、近年急速に研究が進められている。後者において確率的な配分を考えるのは、そうしなければ、公平性を保つことが著しく難しいことが知られているためである。これらの問題を公理論的に分析した。「権利問題」では、権利の大きさの変化が、受け取る資産額にどのような変化を与えるべきかを示唆する様々な「単調性」に関する公理の含意(implication)を分析した。特に、「不均等保持単調性」という公理については、その含意を精密に特定した(メカニズムの特徴付けを行なった)。また、その他の「単調性」の公理に関しては、ロチェスター大学のWilliam Thomson教授との共同研究が進行している。「非分割財の確率的配分問題」では、自分の選好に関して嘘をつくことが得にならないことを要求する「耐戦略性」という公理の含意を中心に分析した。この公理は、メカニズムデザインにおいて、中心的な役割を果たしてきた。各人が1つの財を受け取るケースと、複数の財を受け取るケースの分析を行なった結果、確率的な配分を考えることによって公平性の達成を容易にしたにもかかわらず、両方のケースにおいて「耐戦略性」が、経済学において最も基本的な公理の一つである「効率性」と両立できないことが示された。今後は、このような公理がどのような状況で両立できるのかを精密に分析していくことが重要であると思われる。
|