研究概要 |
他者の情動を認知することは,円滑な社会的関係を維持する上で不可欠である.情動の認知には文化差があるが,その本質は顔や声といった複数感覚情報の統合様式の違いにあるとの視点に立ち,研究を進めている.これまでの研究から,顔と声による情動認知において,日本人はオランダ人よりも声への依存性が高いことが示された.本課題ではこれまでの研究を発展させ,上記結果の一般性を確認した上で,なぜこのような違いが生じるのかを検討する.22年度は,上記結果の一般性を確認するために,2つの研究をおこなった. <研究1>これまでの研究では情動判断の難度を統制するため,顔の動画像にノイズを付加した刺激を用いていたが,明るく視界も良好な日常環境では,顔による情動判断のほうが声よりも容易である.そこで,顔にノイズを加えずに,より日常環境に近い状況下で検討した.実験の結果,日蘭ともに顔判断に対して声が与える影響は小さくなった.一方で,声判断に対する顔からの影響は非常に大きかった.しかし,日本人ではオランダ人と比べて顔からの影響が比較的小さく,先行研究で見られた文化依存性は日常環境に近い状況下でも確認された. <研究2>実験の際,顔と声の両方に基づいて情動を判断させると,文化間で課題に対する理解や意識的方略にも違いが生じる可能性がある.そこでこれまでの研究では,自動的な注意バイアスを探るために,顔または声の一方に基づいて情動判断を求めていた.しかし,現実場面ではわれわれは複数情報を全体的に考慮して情動を判断している.そこで,顔と声の両方に基づいて情動を判断するように教示する実験を日本人を対象に実施した.実験の結果,日本人では顔よりも声に依存した回答が多くなることが示された.
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