研究概要 |
他者の情動を認知することは,円滑な社会的関係を維持する上で不可欠である.情動の認知には文化差があるが,その本質は顔や声といった複数感覚情報の統合様式の違いにあるとの視点に立ち,研究を進めている.これまでの研究から,顔と声による情動認知において,日本人はオランダ人よりも声への依存性が高いことが示された.本課題ではこれまでの研究を発展させ,22年度には上記結果の一般性に関する検討を進め,さまざまな刺激や課題状況において生じることを確認した.最終年度にあたる23年度は,日本人は声への依存性が高いことの原因を探ることを中心に検討を進めた. 日蘭での声依存性の違いを生み出す原因として,大きく文化的要因と言語的要因を指摘できる.文化的要因に着目すると,日本人をはじめとする東アジア文化圏では,発話で意図を伝える際に「何をいうか」よりも「どのようにいうか」を重視するユミュニケーション様式の結果,声にウェイトを置く傾向が高まった可能性がある.言語的要因に着目すると,日本語や中国語で用いられる音の高低(ピッチアクセントや声調など)による語彙識別という言語的特徴が影響した可能性もある.前者の可能性について検討するため,中国人,韓国人,米国人,欧州人(オランダ以外)の4グループを対象とした実験を実施し,欧米人と比べて東アジア人は声の感情を重視するという傾向を見出した.ただし,日本語以上に音の高低(声調)を語彙識別に利用する中国人(中国語話者)では日本人以上に声依存性が高かったことから,文化的要因以外に言語的要因も一定の効果を持つことが示唆された.
|