研究概要 |
わが国の簿記・会計史は未だ十分に考察が行われているとはいえない状況にある。特に,明治初期に関しては諸外国の簿記書の邦訳が行われていたことから,諸外国の簿記・会計史の考察を行うことがわが国の簿記・会計史研究を行うことと同意であると捉えられてきた。しかし,これではわが国の簿記・会計史研究とはいえない。その後,明治初期の邦訳簿記書の復刻などが行われ,わが国の簿記・会計史研究が取り組まれるようになってきたものの,原著と邦訳簿記書とを区別し,わが国の簿記書の特色を見出すよう試みた研究はあまりみられない。 本研究は,明治初期の邦訳簿記書とその原著を明確に区別し,比較を行いながら邦訳簿記書を解読することで,わが国の簿記書史の特色をその教示・説明方法から読み解こうと試みたものである。この際,当該書が出版された背景をも分析することで,明治初期に西洋簿記導入という,日本簿記史上における一つの分岐点の意義,役割,そして影響の一端を明らかにしようとするものである。 具体的には,西洋簿記導入の代表例である大蔵省が実施した教育機関の教科書として用いられた『日用簿記法』を中心に考察を試みることとしている。この考察から,なぜイギリスの簿記書が翻訳されたのか,翻訳と原著とには差異がみられるのか,差異がみられるのであればそれはなぜかということを明らかにし,当時において当該簿記書の果たした役割を明らかにすることを目的としている。持に,この『日用簿記法』の邦訳者は,わが国最初の複式簿記書である『銀行簿記精法』の邦訳者の一人でもあった。このことからも,『銀行簿記精法』のみからは読み解くことが難しい,当時の西洋簿記に対する認識をより明確に捉えることが期待される。
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