研究概要 |
本研究は,明治初期の簿記書を解読し,その教示内容と当該書が出版された背景を分析することで,明治初期に西洋簿記という新たな知識が導入された過程を解明しようと試みるものである。その中で,実務にも強く影響を与えた銀行における簿記教育に焦点を当て,『銀行簿記精法』の邦訳・編集者の一人である宇佐川が邦訳したHuttonの簿記書(『日用簿記法』;邦訳原稿「尋常簿記法」)を取り上げ,『銀行簿記精法』との関係と共に教示内容の考察を進めた。 まず,『銀行簿記精法』は実務への影響が指摘され,当時多くの学校でも用いられた教科書であるが,その教示内容には欠陥がみられる。具体的には,主要簿に対する見解が講述者のShandと邦訳・編集者間で異なること,帳簿の説明が不十分であることなどが挙げられる。このため,銀行における簿記教育では,これを補完する教科書が存在したものと考えられる。その候補として,銀行学局当で簿記の教科書として使われた『日用簿記法』を取り上げた。 分析の結果としては,原著であるHuttonの簿記書および『日用簿記法』「尋常簿記法」の考察を進めたものの,『銀行簿記精法』を補完するために用いられたという可能性を否定するものであった。『日用簿記法』「尋常簿記法」は原著のほぼ完訳となっているため,商業簿記と銀行簿記との帳簿組織の違いがあり,当然,主要簿の説明ついても『銀行簿記精法』を補完するものではなかった。 ただし,応用簿記である銀行簿記を学ぶためには,まず初歩の知識として商業簿記を学ぶことは有意義である。この点については,当時の時間割から先に商業簿記を学び,のちに『銀行簿記精法』に基づき銀行簿記を学習することとなっていたことが明らかとなった。加えて訳者による解説も見られ,初学者に対して西洋簿記の知識を教授するうえで一定の役割を果たしたことは指摘できた。
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