統合失調症やうつ病など、様々な精神障害において侵入的な思考が症状の中核を占めていることが指摘されている。統合失調症患者はこれらの思考に対して不適切な対処方略によって抑制を試みていることが報告されている。本研究は、侵入思考への対処方略と統合失調症の諸特徴との関連を検討し、症状緩和につながる介入方法の考案を目的としている。 平成22年度は、統合失調症患者、および統合失調症型パーソナリティ傾向の高い健常者の侵入思考への対処方略の検討、および対処方略と認知機能との関連を検討した。その結果、統合失調症患者と統合失調症型パーソナリティ傾向の高い健常者は、侵入思考に対して不適切な対処方略を用いる傾向が高いことが示された。また、認知機能の低下と不適切な対処方略の使用の間に関連が見られた。次に、健常者を対象としたアナログ研究として、社会認知機能(情動知能)の低下が対処方略の使用、認知・知覚の変容、主観的QOLに影響を与えるかどうかについての検討を行った。その結果、社会認知機能の低下と不適切な対処方略の使用に関連が見られ、認知・知覚の変容や主観的QOLとの関連も示唆された。さらに、侵入思考への対処方略と思考のリバウンドの関連を、Wegner et al. (1987)の手続きを改変した実験によって検討した。その結果、適切な対処方略を使用する傾向が低いほど、侵入思考のリバウンドは増加していた。 以上の結果から、統合失調症の諸症状のうち、認知機能の低下が侵入思考への対処方略に影響することと、侵入思考への対処方略が思考のリバウンドに影響することが示唆された。
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