統合失調症やうつ病など、様々な精神障害において侵入的な思考が症状の中核を占めていることが指摘されている。統合失調症患者はこれらの思考に対して不適切な対処方略によって抑制を試みていることが先行研究で報告されている。本研究は、侵入思考への対処方略と統合失調症と関連する諸特徴との関連を検討し、症状緩和につながる介入方法の考案に資することを目的とした。 本年度は昨年度に引き続き、認知機能と侵入思考への対処方略の関連について検討を行った。また、不適切な対処方略、思考の統制感、外的帰属傾向と、被害妄想的観念やQOLの関連について検討を行った。主な結果は下記のとおりである。 1. 統合失調症群では認知機能と不適切な対処方略の間に負の関連が、健常者群では認知機能と適切な対処方略との間に正の関連が示された。ただし、統合失調症型パーソナリティ傾向の高い健常者では、認知機能と不適切な対処方略の間に負の関連が示された。 2. 侵入思考に対する統制感を測定するため、日本語版Thought Control Ability Questionnaire の開発を行い、その信頼性、妥当性の検証を行った。次に、被害妄想的観念の程度が、思考の統制感、対処方略に影響を受けるかどうかを縦断的調査によって検討した。その結果、初回時に測定された思考のコントロール感と対処方略が3週間後に測定された被害妄想的観念の頻度、苦痛に影響を及ぼすことが確認された。また、思考の統制感は約9ヶ月後の頻度にも影響を及ぼした。 3. 統合失調症様の体験を示す統合失調症型パーソナリティとQOLの関連を構造方程式モデリングによって検討した。その結果、統合失調症型パーソナリティは、外的統制傾向、思考の統制感の低下と関連があり、思考の統制感の低下は不適切な対処方略を引き起こし、QOLの低下につながることが示唆された。
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