2010年度は文献研究及び実験デザインの検討を行い、データ収集を開始した。文献研究の結果は「ダウン症児・者におけるメタ言語意識研究の現状と課題」として長野大学紀要第32巻第3号に掲載された。これは英語圏の研究を中心にダウン症児・者のメタ言語意識研究について、主な研究方法や研究成果という視点からまとめたもので、日本語における研究の意義を述べた上で日本語を母語とするダウン症児・者を対象にした研究が少ないことを指摘した。またその成果を踏まえ、本研究の実験デザインを検討した。本研究についてはまだ比較に足る充分なデータが収集できていないため成果が得られていないが、本研究の意義及び重要性としては、構音障害や発話の不明瞭さを有するダウン症児・者への言語指導への貢献を挙げることができる。具体的には、本研究における仮説である音韻表象の不完全さがダウン症児・者に特有の構音障害や発話の不明瞭さの要因の1つであるとすれば、構音練習中心ではなくより音韻表象に働きかける言語指導の方法を検討することができると期待される。またダウン症児・者に特有のことばの問題を引き起こす要因を心理言語学的視点から分析することは、発話の非流暢性や吃音、早口症といった、ダウン症児・者の示すそれ以外の言語の問題への理解を進めることにも繋がると考えられる。さらに、音韻表象と構音や発話の明瞭さとの関係を明らかにすることは、ダウン症以外の知的障害や言語障害の理解と支援にも役に立つのではないかと考えられる。
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