本研究の目的は政策金利が一本化されているにも関わらず、各国の貸付金利の乖離が存在するユーロ圏の現実を反映したモデルを構築し、そこで発生する通貨統合の費用(独立的金融政策喪失による厚生損失)を明らかにすることである。こうした目的に向けて、申請段階で3つの作業工程を設けた。第一工程はユーロ圏における貸付金利の収斂が進んでいるのか否かを実証的に確認すること、第二工程はモデルの構築を進めること、第三工程は経済厚生を考慮に入れたシミュレーション分析を実施することである。なお、第一工程(実証分析)は必ずしも第二・第三工程(理論分析)の前に行わねばならないという類のものではなく、性質上独立した研究として実施可能なものである。現在の進捗状況としては、理論分析について一応の結論を得ている段階である。実証分析については実施のいかんも含めてデータの存在等に関する調査を行っている。理論分析からは、共通通貨圏において発生している貸付金利変動のバラつきに対して各国中央銀行が独立的な政策対応をとれないことにより、加盟各国内のGDPギャップやインフレの変動を高めているとの結論が得られた。つまり、貸付市場の分断が残っている状況が貸付金利の非対称な変動を招き、通貨統合の費用を増大させているとの結論が得られた。現在ここまで得られた結論をベースに学会等での報告と意見収集を進めながら、ここまでの議論を経済厚生ベースで論じられるようモデルの改良を進めている段階である。平成23年度は報告を通じて得られる意見を反映させながら論文の形にまとめ、学術雑誌への投稿段階までまとめたいと考えている。
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