平成22年度に実施した研究の成果は、以下の通りである。 第1に、当初の計画どおり、博士論文の執筆時にはフォローすることのできなかった、英米における近年の法哲学・法と経済学の議論を渉猟しながら、知的財産権の正当化根拠論の研究を進めた。具体的には、知的財産権の正当化根拠としてのロック労働所有理論、ヘーゲル人格所有理論、および事後のインセンティヴ論の意義と限界を明らかにすることに努めた。そして、その成果を論文として公表した(山根崇邦「知的財産権の正当化根拠論の現代的意義(2)~(5)」知的財産法政策学研究30~33号(2010~2011年))。特にロック労働所有理論と知的財産権に関する研究成果については、我が国を代表するロック研究者(法哲学)からメールで激励のコメントを頂くなどの反響があり、一定の意義が認められたものと思われる。 第2に、当初の計画を前倒しして、特許制度リフォーム論議における正当化根拠論の意義について研究を進めた。具体的には、特許制度を取り巻く環境の変化が提起する深刻な問題への対応に追われる米国の動向を参照しながら、望ましい特許制度の再構築に向けた取り組みの処方箋として正当化根拠論が機能しうる可能性について探求した。その成果の一つとして、米国特許制度の破綻の実態を実証的に明らかにした書籍の紹介論文を執筆し、公表した(山根崇邦「米国特許制度の破綻とその対応策」アメリカ法2010-1号)。また、米国特許制度の復権に向けて適切な権限配分枠組みの構築に取り組む学界動向についてまとめた論文を、近く『同志社法学』に公表する予定である。
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