研究計画の2年目にあたる本年度は、研究を十全なものにまとめあけると共に、それを発表することにあてられた。本研究の課題は、民主体制下においてラテンアメリカで成長を遂げた先住民運動について、特にその活動が活発なエクアドルとボリビアの2国を比較することである。各国の地理はアンデス高地とアマゾンを中心とする低地に分けられ、それぞれに先住民運動の拠点がある。2国2地域の計4組織について、民主体制下における政権獲得行動(国政選挙参加と、ゲリラ活動をはじめとする制度外的行動)を比較すると、各行動を始めるタイミングや組み合わせ方が四者四様であることがわかった。両国の運動を取り巻く条件は政治経済を含めて非常に類似していることから、行動の差異の原因は内面的なもの、すなわち正当する行動に関する考え方の違いにあるというのが、本研究の仮説である。 4組織の文書および関係者の発言を総合すると、民主体制下で取るべき行動に関する解釈に大きな差があることが判明した。例えば、政党政治に対しては、それを政権獲得のための場と見ることもあれば、伝統的に政界を支配してきた非先住民の勝利が約束された場で、参加に値しないと見ることもあった。こうした規範内容の差は実際の行動に対応したものであった。 規範形成を行動の説明に生かす枠組みは政治学で構成主義と呼ばれる。複数の事例を分析対象とする比較分析において、構成主義の有効な事例が発表されることは少なく、本研究は有意義な事例研究を提供出来たと言える。
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