本研究の目的は、近年わが国においても議論され始めた保育の質について、特に保育実践におけるプロセス(過程)の質とは何かを実践に即して明らかにすることである。 今年度は、保育実践における保育者と子ども関係において、プロセス(過程)の質とはどのように捉えられ経験されているのかを明らかにするため、保育記録の質的分析を行なった。具体的には、実践の当事者が研究を行なうという立場から、筆者が保育者として実践した当時の保育記録をKJ法を用いて分析した。その結果、保育記録の内容は8つのグループに分類でき、その特徴から、保育者は子ども・保育者・職員・保護者との関係性を重視していることが確認できた。また記録内容の意味連関の考察から、保育者は、子どもの育ちへの願いを持ち、子どもと出会い、子どもの行為の意味を考え、新たな関わりを展開させており、この積み重ねの中にプロセス(過程)の質が見いだせることが明らかになった。また、もともと品質管理システムとして発展したPDCAサイクルが教育・福祉の分野にも導入されつつあるが、本研究の結果からは、保育実践のプロセスは、保育者の保育観・育ちへの願いとの往還を絶えず繰り返しながら継続しているという点で、PDCAサイクルでは捉えきれない部分があることが考察された。 本研究で行なったように、保育に直接関係する保育者・子ども・保護者等の日々の経験を反映した、目に見えにくい実践の積み重ねを言語化することは、単なるサービス内容としての保育の質議論ではなく、実践に即した保育の質議論を進めるために意義があると言える。
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