今年度は、昨年度の予備調査の結果を踏まえて、温州商人の人的ネットワークに関する本調査を実施した。その手続きとしては、まず、人的ネットワークに関する先行研究をレビューし、商人の人的ネットワークの性質を明らかにするうえでは、経営規模と事業志向という二つの変数を抽出した。次に、2011年3月に中国温州で、2011年5月に、中国北京で、温州商人への定性調査を実施した。これらの定性調査の結果を反映して、質問表を作成した。そして、2011年8月に、中国温州で商店主500人を対象に、人的ネットワークに関する質問票調査を行った。さらに、定量調査で確認できなかったところを検証するために、2012年3月に、再度中国の北京と温州で商人への定性調査を実施した。以上の研究調査の結果、以下のような研究成果が得られた。 (1)温州商人の人的ネットワークと経営規模について、経営規模の大きい商人と経営規模の小さい商人とは、経営上における相談相手の人数が異なるだけではなく、経営規模の小さい商人は、家族や親戚とよりよく相談し、経営規模の大きい商人は、取引先、同じ商業集積の同業者や、同じ商業集積の異業種の従事者とよりよく相談するという結果が得られた。 (2)温州商人の人的ネットワークと事業志向について、事業志向によって、経営上における相談相手の人数が異なるだけではなく、生業志向を持っている商人は、家族や親戚と良く相談する一方、それ以外の人とは、あまり相談しない傾向がある。生業志向を持っている商人に比べて、企業家志向を持っている商人は、取引先や異業種の友人とよりよく相談するという結果が得られた。 調査の結果から分かるように、温州商人には、家族・親戚、友人や取引先などを含めた、多種多様な人的ネットワークが存在しているだけではなく、その人的ネットワークが、経営規模や事業志向によって異なるのである。こうした温州商人の人的ネットワークの多様性を明らかにすることには、温州商人に対する多面的な理解において、重要な意味を持つと考えられる。
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