本年度は、2カ年の研究課題の最終年度であり、ハンセン病経験者の生活の全体像を把握し、その生を多面的に支えるために、ハンセン病療養所入所者・退所者・非入所者・家族、療養所看護師・ソーシャルワーカー・義肢装具士などに対する聞き取り調査と、退所者の会(SHG)の参与観察を、数箇所のフィールド(療養所・SHG・支援組織等)において継続的に実施した。それらのデータをもとに、日本ハンセン病学会・日本社会学会等で、退所者や非入所者の生の経験に関する研究報告を行い、内在的検討を加えた。また、今まで十分な考察の対象となってこなかった退所者の生を、実存的位相に照準して、家族・職場・地域といった社会生活における主要な<居場所>の意味を解明する論文を社会学系査読誌に発表した。そして、国際看護師協会の研究雑誌日本語版に生活者のケアに関する総説を発表し、ハンセン病療養所の臨床実践を念頭に、従来の画一的な専門職批判を超えた実践倫理の重要性を主張した。 従来のハンセン病問題に関するほとんどの経験的研究が、当事者へのヒアリングをもとに、その主観的な病いの意味を明らかにすることに目的を限定化していたのに対し、本研究は当事者のみならず、援助職や支援者など当事者と日常の相互作用を行う諸主体をも調査の対象とし、フィールドをより深くかつ包括的に捉えたものである。当事者の生をより豊かに支えていくことを目標に置いている点が他の研究とは大きく異なり、重要な臨床的意義を持つと考えられた。
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