研究概要 |
1)英国の視察及び当該支援に関わる専門家等からの情報収集を行った。英国においては、聞こえないことを社会・文化的視点からとらえ,手話を固有の言語として認識していることが分かった。また、聞こえにくい子と聴者の家族との関係をアセスメントするツールに関する情報を入手することができた。これは我が国でも活用できるものであると考えられ,我が国で実施できる支援方法内容の構想が示唆された 2)平成22年8月から,聞こえない者(高校生、成人)をもつ母親を対象として半構造化面接を実施した(現在も継続中).対象者は,関東地区の難聴児をもつ親の会,関東地区・関西地区の情報提供施設から紹介を得た9名であった.結果として、(1)母親は聞こえない子の発達段階ごとに,「聞こえない」ことに対して,肯定的な感情と否定的な感情が交互に発生し,同時に「聞こえる」ことに対する肯定的な感情と否定的な感情が交互に発生し,それが,子どもと母親との関係を難しくさせること,(2)母親に対して子どもの発達段階に応じた段階的な支援が必要ということ,(3)生成された8つの大カテゴリーが,母親の心理状態の評価項目と心理臨床的支援ニーズの評価項目,聞こえない者のアイデンティティ発達と聴者の家族との関係の様相を把握する評価項目として活用できる可能性,が仮説として考えられた。 3)平成22年7月から、聞こえない当事者が5~10名参加するグループワーク活動を対象とし,2か月に1回程度行われている活動へ参加すると同時に記録をとり,質的に分析した.参与観察は現在も継続中である。現在は新たなデータを収集しつつ,これまで収集したデータ分析を進めている.これまで分析を実施したデータからは,聞こえない者のアイデンティティ発達と聴者の家族の関係の特徴として,(1)一番身近である家族が「聞こえない」ことについて理解がない→自分は「聞こえない」人なのか「聞こえる」人なのか、足元がぐらつく感覚がある、(2)「たわいない」話の輪に入れないことの困難さ、(3)一番分かってもらいたい人たち(家族のことを意味している)に、伝えたいことが伝わらないときの感情コントロールの難しさ、(4)小学・中学・高校のとき家族に情緒的交流を求めていたのにかなわなかったが、成人(20,30代になった)した現在、家族が情緒的交流につとめようとしている姿に矛盾と苛立ちを感じる、ことが分かった。
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