研究概要 |
表面反応で生成した分子の原子核スピン温度についてはまだ明らかになっていない部分が多いため,現在行われている理論研究や天文観測研究からだけでは彗星で観測される分子の原子核スピン温度が持つ意味を正しく解釈することは難しい.この現状を改善するために,低温表面上のH_2O分子の原子核スピン温度を測定する実験を行った.本年度は以下1.2.の実験を行った. 1.超高真空槽中に設置した低温アルミ基板(~10K)上に,室温のH_2Oガスを蒸着させる.生成したH_2O氷を150K付近まで加熱することで昇華させ,その原子核スピン温度を共鳴多光子イオン化法により測定した. 2.原子核スピン温度を変化させるために必要なオルソ/パラ変換反応が固相で起きるがどうかの確認するために,1.で生成させたH_2O分子を低温表面で1週間保持したあとに,過熱を行い基板上のH_2O分子を昇華させ,その原子核スピン温度が1.で測定した温度と異なるかどうかを調べた. その結果,1.2.どちらの実験においても,観測されたH_2O分子の原子核スピン温度は基板温度10Kよりも高い統計重率比3(>50K)をとることがわかった.これは室温のH_2Oガスを基板に蒸着させたとき,そのH_2O分子の原子核スピン温度が少なくとも50K以上であることを示している.さらに,固相におけるH_2O分子のオルソ/パラ変換反応は10Kでは,少なくとも1週間では起こらないことが明らかとなった.彗星中のH_2Oは分子雲で生成したと考えられているため,来年度は,分子雲中のH_2O生成を模擬的に再現し,その原子核スピン温度の測定をおこなう.具体的には,低温基板(~10K)上にO_2分子を蒸着させ,マイクロ波放電によりH原子を照射することで,基板上にH_2O分子そのものを生成させ,その原子核スピン温度を共鳴多光子イオン化法により測定により測定する.
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