本研究の目的は、脈動変光星(セファイド)を利用して、銀河系(特に渦状腕領域)の構造と運動を調べることである。それぞれのセファイドの距離を周期光度関係から求められるので、銀河系中に分布しているセファイドの探査を行うことで銀河系の構造を描き出すことができる。しかし、銀河系ディスク領域に存在する星間減光のために、十分な探査が進んでいなかった。太陽系から3キロパーセクを超えるような銀河系の広い範囲にあるセファイドを見つけるためには赤外線観測を行う必要がある。そこで、我々は南アフリカ天文台にあるIRSF赤外線望遠鏡により、渦状腕領域の変光星探査を行う。平成22年度には2月から3月にかけて、3週間南アフリカ天文台の観測施設に滞在し、観測を行った。また、それ以外の期間にも、同じ望遠鏡に滞在する研究者に依頼をして観測データを取得することができた。現在、解析を行っている。一方、すでに同じ望遠鏡で同様の観測を行っていた銀河系中心領域に対して、解析と議論を行った。これまでその領域のセファイドは発見されていなかったが、我々の観測で3個のセファイドが初めて見つかった。いずれも約20日の周期を持ち、年齢が2500万年程度であることが分かる。一定の星形成率であれば、周期が短くて年齢の大きなセファイドが5倍以上期待されるが、今回の観測では見つからなかった。これは、銀河系中心領域の星形成が、約2500万年前に急にさかんになったためだと考えられる。このような星形成の時間的変化は、ディスクから銀河系中心領域にガスが運ばれる過程が偶発的に起こることを示唆している。また、IRSF望遠鏡のマゼラン銀河赤外線カタログと、Optical Gravitational Lensing Experiment(ポーランド・ワルシャワ大)のカタログを利用したセファイド変光星の周期光度関係に関する研究も行った。
|