研究概要 |
スピン流はスピンを用いた電気信号制御において重要な役割を担い、次世代スピントロニクス素子の実現において必須の物理量である。本研究では、このスピン流を生成する手法として知られるスピンホール効果のメカニズムの探索と、スピン流の干渉効果の実験を行うことを目的としている。昨年度は、スピンホール効果を単体では発現しない非磁性体Cuに、スピン軌道相互作用の大きなIrを添加することで、スピン流生成効率を表すスピンホール角が2.1%程度になることが分かり、その結果はPhysical Review Letters誌(Y.Niimi et al.,Phys.Rev Lett.106,126601(2011).)に掲載された。 今年度も引き続き外因性スピンホール効果の研究を行い、さまざまな不純物をCuに添加した結果、Biをわずかに添加することで、スピンホール角が-12%とIrに比べて1桁大きくなることが分かり、この結果は現在投稿準備中である。 さらに今年度は本研究課題のもう1つのテーマであるスピン流干渉効果の実験にも取り組んだ。まず通常の電子の干渉現象、つまりAharonov-Bohm(AB)効果が観測できるかを厚さ20nmのCu細線のリングで確かめた。その結果、370mKで通常のAB振動を観測することに成功した。さらに強磁性体細線を準備して、当初の計画通りスピン流干渉効果の実験を試みたが、スピン流による干渉効果は観測されなかった。その原因として、抵抗率の大きな強磁性体に電流を流すことでヒーティングが起き、そのために電子温度が上昇している可能性が考えられる。またAB振動を観測するためには、素子の抵抗をある程度大きくする必要があるため、膜厚を20nmとしたが、スピン流干渉に重要となるスピン拡散長が、膜厚を薄くすると短くなることが予備実験で分かり、そのために干渉効果が明瞭に観測できなかった可能性が考えられる。
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