研究概要 |
本研究の目は,高い熱電変換性能を示す新規カルコゲナイドを創製することである。 高性能熱電物質には低い熱伝導率と高い熱電能および低い電気抵抗率の3つの特性が求められる。本年度は,立方晶スピネル構造を有する四元化合物Cu_yT_4Sn_<12>X_<32>(T=Mn,Fe,Co,Ni,X=S,Se)の多結晶の作製を試みた。X=Sでは全てのTにおいて試料を作製でき,さらにX=Seでは,結晶構造未報告のCe_yFE_4Sn_<12>Se_<32>の作製に初めて成功した。 上記の化合物の中で,まずT=Feの熱電物性について詳しく調べた。T=Fe,X=S,Seの熱伝導率の値は1.5W/kmとガラス並みに低い。これは,単位胞内に56個もの原子が含まれることと,16dサイトにおけるFeとSnのランダム占有という結晶構造の複雑さのためである。また,X=S,Se共に半導体的な電気抵抗率と巨大な熱電能を示す。これらの温度依存性を解析することにより,巨大な熱電能の原因が三次元の可変領域ホッピング(VRH)伝導であることを明らかにした。特にX=Seでは,広い温度領域でのVRH伝導のために,低い電気抵抗率と温度の1/2乗に比例して増加する熱電能を示す。 これらの結果に基づき,複雑な結晶構造をもちVRH伝導を示す物質は,低い熱伝導率と指数関数的に減少する電気抵抗率および温度増加と共に増大する熱電能のために,高温において高い熱電変換性能を示す可能性があると提案した。
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