研究概要 |
本年の研究実施計画は,前年度開発した(双極近似のパウリ・フィールツ模型のハミルトニアンの基底状態を解析するために用いられた)手法を応用して,双極近似なしのバウリ・フィールツ模型などの粒子と量子場が相互作用する系に対するハミルトニアンの基底状態を解析し,束縛の強化について詳しく調べることであった.その方法は,ハミルトニアンを並進対称な作用素とそうでないものに分解し,前者の性質がどのように反映されるかをみるものである.前年の結果では,並進対称な作用素が既存の研究でよくわかっているものだったので,その性質を場の量子論の文脈へ拡張することができ,基底状態の解析が可能となった.今年度解析をおこなったハミルトニアンの場合は,並進対称な作用素が十分研究されたものではなかったので,その一般的性質について理解を深める必要性が生じた.並進対称な作用素は運動量ごとのハミルトニアンに分解可能であることが知られている.本年は,運動量などで分解可能な作用素に関する研究を行った.特に,((擬)運動量で分解することが可能な)結晶中を運動する粒子のハミルトニアンのスベクトルについて,詳しく調べた.このような粒子のハミルトニアンは,グラフ上のラプラシアンとみなすことができて,そのスペクトルの構造については純数学的な関心も高い。以下のような結果を得た:(1)1次元(結品)格子を一定の法則に従って周期的に変形させると,その変化に応じて,束縛の強化が起きる(この場合は,固有値が現れる)ことがわかった.副産物として,1次元格子に対するこの種の変形ではスペクトルにバンドギャップが常に現れるが証明された.(2)2次元格子および六角格子の場合も(1)と同様の変形によって,束縛の強化が起きることがわかった.スペクトルのギャップについては,1次元と異なり変形の仕方によって,スペクトルのギャップが現れたり,消えたりすることがわかった.
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