研究概要 |
Ricci曲率が下に爆発しない,リーマン多様体列とその極限を考える.そのような極限を幾何的,解析的に調べることが本研究テーマである.そこで当該年度においては,まず,その極限上で角度の概念がwell-definedであることを示し,角度のある意味でのヘルダー連続性を与えた.これはアレクサンドロフ空間論との類似性を表す一つの例となっており,重要である.実際研究代表者が発表した論文:Ricci curvature and convergence of Lipschitz functionsにおいても,角度のある意味での連続性が与えられ,それが本質的となって,新しい関数の収束の概念とその応用が与えられたが,この角度のヘルダー連続性はその精密化となっている.また,低次元極限に関して,以前予想した,「一次元正則集合が空でなければ,空間のハウスドルフ次元は1だろう」を解くことができた.これは,Ricci曲率が下に爆発しない極限では,次元は一様であろう,という予想の,一次元正則集合が存在するときの完全解決になっている.この問題が解けたことによって,次のステップである,ハウスドルフ次元が2以上,3未満である極限の研究に本格的にトライできる状況が整ったといえる.実際,そのような極限に関して次の結果を得ることができた:「ハウスドルフ次元が2以上3未満の極限において,任意の二点を取ると,その二点を結ぶある測地線において,次の(1)か(2)が成り立つ:(1)その測地線の内点はすべて二次元正則集合上にある(2)その測地線の内点はすべて特異集合上にある.」この主張の重要な点は,今後,空間のregularityがこれを使って得られる可能性がある点である.たとえば,この主張と幾何学的測度論におけるライフェンバーグの方法を用いて,ハウスドルフ次元が2以上3未満の極限の正則点の周りで位相的に円盤を作れる可能性が強まってきたといえる。
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