リーマン幾何学における手法の一つであるリッチ流についての研究を行った。特に第2種曲率作用素との関係を調べた。第2種曲率作用素とは曲率テンソルから定まるある自己共役作用素で、対称テンソルに対して作用する。リーマン曲率テンソルから定まるその作用素が、トレースが消える対称テンソルの成す部分空間に制限すると正になるとき、そのリーマン多様体は正の第2種曲率作用素をもつという。その定義は通常の曲率作用素よりもやや複雑であり扱いが難しい。 最近のリッチ流に関する大きな進展の一つとして、Bohm-Wilkingによる(第1種)曲率作用素が正である閉多様体についての球面定理がある。彼らの定理は結論だけでなく、その証明に用いられた議論の枠組みが強力であり今後も応用可能であると思われる。それを受けて、同様の主張が第2種曲率作用素に対しても成り立つと期待するのは自然である。実際、第2種曲率作用素が正であるようなリーマン計量を初期計量とするリッチ流は、体積を正規化するリスケールの下で正定曲率計量に収束することが分かる。これはBohm-Wilkingが実際に証明していた定理と、Brendle-Schoenが示したリッチ流の下での正等方曲率条件の保存性を合わせることで示される。本年度はこの主張のBohm-Wilkingの定理に拠らない別証明を考えた。第2種曲率作用素の定義の複雑さなどにより、第1種の場合の証明がそのままでは使えず、証明の大部分を書き換える必要がある。例えば、リッチ流は第2種曲率作用素が正であるという曲率条件を保つのか、第1種または第2種曲率作用素が正であるという曲率条件の間の関係などは知られていないため、これらを示すことが別証明の鍵となると思われる。
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