研究概要 |
(1)単結晶育成:フラックス濃度と石英管内真空度を系統的に変化させ、育成条件の最適化を試みた。その結果、結晶化には質量比で4倍以上のフラックスが必要であることや、高真空環境ほど結晶が大型化する傾向を見出した。この最適化により1.0x1.0x0.2mm^3クラスの単結晶の安定供給が可能となった。 (2)中性子散乱実験:単結晶を用いて秩序化温度T_N=37.5K以下で磁気ブラッグ散乱ピークの積分強度測定を行った。その結果、ゼロ磁場中3Kの磁気構造はc軸方向を含む面内に、右巻き、左巻きの120度スピン面が有限の角度で交互に積層する構造である解析結果を得た。この磁気構造は類縁のLiCrO_2と似た構造であるが、単純な三角格子Crスピン間の交換相互作用を考えただけでは実現が難しい。このため、より高次の項の影響が考えられる。単結晶を用いた本研究によりPdCrO_2の低温磁気構造の実態が浮き彫りになってきた点は重要である。一方、T>T^*(=20K)の30Kで行った磁気構造解析には、可能性を捨てきれない構造モデルがまだ残されている。現状ではT^*をまたぐ温度域でスピン方向やその変化までを十分に決定できていない。これらの点は今後の課題である。 (3)磁気抵抗の角度効果:磁性金属PdCrO_2と非磁性金属PdCoO_2の層間抵抗(R_<zz>)の磁場角度依存性を測定し、電子構造を調べた。その結果、R_<zz>の明確な角度依存性振動を観測し、理論計算等で示唆される6角形状の筒状フェルミ面と符合する結果を得た。また、磁場を[1-10]方向に印加した時、両系でR_<zz>が大きく増強されることを見出した。この効果はPdCoO_2の方が大きく、T=2K,H=9Tで約100倍も増強することが分かった。電子系が本来持つ重要な性質が新たに浮き彫りとなった。
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