研究概要 |
本年度は、無機カイラル磁性体の新規物質の探索及び単結晶の育成を目標に掲げ研究を行った。カイラルな結晶構造を有する螺旋磁性体CsCuCl_3は再結晶化及び育成条件の最適化を行うことで、これまでの100倍以上もの体積を有する単結晶試料の育成に成功した。 しかし、中性子回折測定を実施するには不十分な大きさである為、今後、さらなる大型単結晶の育成を目指す。FePO_4については、粉末及び単結晶試料の育成に成功し、磁化測定で27Kに磁気転移を確認した。本物質は、カイラルな結晶構造を有する水晶(α-SiO_2)の倍周期の結晶構造を形成するため結晶構造もカイラルとなり、カイラルらせん磁気構造が期待される。粉末中性子回折測定を実施したところ、磁気伝搬ベクトルk_<mag>は(0,0,3/2)と螺旋磁性ではなく、整合的な磁気構造を有する反強磁性体であることを決定した。また、15~20Kの間の温度で各散乱面の磁気散乱強度の関係が反転し、スピンフロップ転位の存在を確認した。例えば、(0,0,3/2)は20Kの時ピーク強度が最大となるが、15Kになると強度が激減する。一方、(1,0,1/2)は20Kまではピーク強度は弱いが、15K以下になると増大する。よって、磁気転移温度から20Kまでの中間相はa-b面の反強磁性だが、15K以下ではc軸方向の反強磁性に転移したと理解できる。但し、(0,0,3/2)の磁気散乱強度がわずかに残っているため、最低温相は単純なc軸方向の反強磁性ではない。よって、今後、更なる磁気構造解析を行う。
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