グラファイト上に形成されるヘリウム3薄膜の高磁場物性は、反強磁性整合相(4/7相)以外のデータが得られていない。本研究では、高磁場特性を計測できる手法であることがわかった核磁気共鳴(NMR)に改良を加え、従来より高精度な計測システムを開発する。さらに開発したシステムを用いて4/7相以外の相でのデータを得ることも目指している。初年度の平成22年度は、NMR計測システムの高感度化に取り組んだ。精度よく計測できる条件を効率的に見つけるため、予備実験用の測定システムを中央大学において作成した。予備実験では、計測対象を水素とした。これは、計測をヘリウム3で行うと低温まで冷却せねばならず時間を浪費するので、予備実験に不向きと考えたためである。計測対象以外はヘリウム3のNMRと同様のシステムにした。NMRはcw法を用い、ピックアップコイル、ブリッジ回路、プリアンプを用意した。ブリッジ回路は、周波数に応じて2種類用意した。100MHz以下では非対称ブリッジ回路、100MHz以上ではハイブリッドジャンクションを用いた回路を作成した。プリアンプは、感度を上げるために4.2Kまで働くものを整備した。これにより、プリアンプとプローブ間の距離が短くできるようになった。さらに、プリアンプの電源からのノイズ対策も考慮して低雑音仕様の直流電源を導入した。ピックアップコイルは、低温プリアンプ用に工夫をした。ピックアップコイルをダブルコイル式にし、ブリッジ回路を低温に設置しなくても済むようにした。ダブルコイル式の他に、シングルコイル式のピックアップコイルも作成した。これは、低温プリアンプによって感度がどの程度改善するか比較できるようにするためである。以上のような予備実験用の高感度システムを用いて、最も精度の良い計測条件を探っている。
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