代数曲線のモジュライ空間は、幾何学、代数学、数理物理学が交差する重要な研究対象であると同時に、それ自身が興味深い数学的構造を持つ空間である。本研究の考察対象は、このモジュライ空間のコホモロジーの構造である。それを調べるために、代数曲線のモジュライ空間を一般化した、重み付きの点付き安定曲線のモジュライ空間というものを考える。この空間には標点の置換として対称群が作用し、コホモロジーはその表現空間となる。この表現の構造およびコホモロジーのホッジ構造に着目してコホモロジーの性質を調べている。平成22年度は、代数曲線の種数がゼロの場合に、コホモロジーの表現としての指標を決定する問題を研究した。研究成果として、指標を点の数と重みに関して帰納的に決定するアルゴリズムを得た。その方法は、重みという曲線の安定性を定めるパラメータを動かすことによって得られるブローアップ列を用いることにより、重みと点の数に関して帰納的にコホモロジーを計算するというものである。この方法は仮想指標を含まないことから、計算効率が良く、コンピュータによる計算に適していると考えられる。また、得られたアルゴリズムの応用として、コホモロジーの対称群の表現としての長さに関するファーバーとパンドハリパンデによる評価式の最良性が証明できた。以上の内容は、連携研究者であるベルグストローム(スウェーデン王立工科大学)との共同研究であり、現在論文を準備中である。また、重み付きの点付き安定曲線の特別な場合である、ロゼフ・マニンのモジュライ空間のコホモロジーについても研究し、指標を与える組合せ論的な明示公式を与えた。
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