与えられた図形の起こり得る全ての変化をパラメトライズする空間をモジュライ空間と言う。幾何学的に重要な対象のジュライ空間は、それ自身が重要な数学的構造を持つ場合が多い。代数曲線のモジュライ空間はその典型例である。代数曲線上にn個の点が指定された、n点付き代数曲線というものを考える。そのモジュライ空間は、通常の代数曲線のモジュライ空間に、n個の点の位置の自由度を付け加えたものになる。このn点付き代数曲線のモジュライ空間には、n点の置換としてn次対称群が自然に作用する。この作用によってモジュライ空間のコホモロジーは対称群の線形表現となる。この表現の性質の解明を目標として研究を行った。主結果は、代数曲線の種数がゼロの場合のモジュライ空間のコホモロジーの表現の指標公式である。この指標の表示式はゲツラーによって得られていたが、本研究で得られた公式は指標を求めるアルゴリズムである。計算は点の数nについて帰納的に行われ、これによって計算効率が向上した。また技術的な面では、重み付きの点付き代数曲線を用いた点が新しい。得られたアルゴリズムの応用として、コホモロジーの対称群の表現としての長さに関するファーバーとパンドハリパンデによる評価式の最良性が証明できた。以上の結果は、連携研究者であるベルグストローム(スウェーデン王立工科大学)との共同研究で得られた成果である。上で述べた研究成果を論文にまとめ、プレプリントサーバarXiv.orgにおいて公開した(arXiv:1111.6438)。また、重み付きの点付き代数曲線のモジュライ空間の一種であるロゼフ・マンン空間のコホモロジーに関する同様の結果についても、論文を公開した(arXiv:1108.0338)。これらの論文は現在論文雑誌に投稿中である。
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