インフレーションは、ビッグバン宇宙論では説明できない宇宙の構造の起源を説明することが可能な非常に優れたシナリオであるが、その現実的モデルに関しては、不確かさや不定性が多く残されている。そこで重要となるのが、インフレーション期に生成されたゆらぎを、精密観測を通じて観測的に明らかにすることである。観測される揺らぎと各モデルにおいて理論的に予言される揺らぎの比較を行う上で、ゲージ不変摂動論に基づいて揺らぎの計算を行うことが重要であるということは広く知られてきた。しかし、我々が実際の観測において観測可能な宇宙の領域は全宇宙の領域のうちの一部である有限の領域であり、観測量の計算においてはこの点を考慮する必要がある、という点はこれまであまり認識されていなかった。前年までの我々の研究において、観測領域の有限性を考慮した上でゲージ不変摂動論を行うことは、特に非線形効果の計算において重要となることを示した。実際、観測領域の有限性を考慮していない従来の摂動論においては輻射補正の赤外補正は発散してしまうことが知られていたが、観測領域の有限性を考慮するとこのような発散が現れない、ということを示した。インフレーション中に生成される揺らぎは非常に小さいため線形摂動論は揺らぎの評価を行う上で良い近似であるが、インフレーションモデルについてより多くの情報を引き出すには非線形効果にも着目する必要がある。従って、各モデルにおいて予言される非線形効果を実際の観測に即して正しく評価しておく事は非常に重要である。 そこで我々は、観測領域の有限性を考慮に入れた上でゲージ不変摂動論を行う方法を提案した。特に興味深いのは、観測可能でない領域の影響を受けないためには、宇宙の初期状態は強く制限されている、という点である。また、現在稼働中のPlanckでも観測が期待されている3点相関の計算を、1成分及び多成分のスカラー場を含むインフレーションモデルに対して行い、従来の摂動論の結果とは大きく異なる場合があることを示した。この事は今後、初期揺らぎの理論計算を行う上で考慮されるべき重要な点である。
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