本研究の目的は、黒点を含む活動領域から静穏領域への磁束輸送過程を理解することである。当初は磁束の収支を調べることを計画していたが、広い範囲の磁束収支計算に必要なHelioseismic and Magnetic Imagerで得られた太陽全面の磁場データの最終校正版のリリースが遅れてまった。そのため、磁束輸送過程の理解の鍵を握る太陽表面(光球)の磁場と太陽内部の流れの関係を詳細に調べた。太陽表面の磁場分布は、太陽内部の流れに支配されていると考えられており、磁場と対流の相互作用を調べることは、磁束の輸送を理解するために必要不可欠である。太陽静穏領域における比較的強い磁場は、超粒状斑の境界付近に網の目状に分布している。これらは、ネットワーク磁場と呼ばれ、太陽面に対して垂直な磁場が支配的である。一方、「ひので」による高解像度・高精度磁場観測は、黒点磁束に匹敵する多量の水平磁場が、静穏領域に分布していることを明らかにした。「ひので」で観測される光球磁場の分布や特徴と太陽内部の対流運動との比較を行った。太陽内部を直接観測することは不可能だが、太陽表面の振動から内部構造を探る日震学を用いて太陽内部の対流運動を導出した。ネットワーク磁場(垂直磁場領域)が、超粒状斑規模の収束流領域に位置することを確かめた。これは、ネットワーク磁場の分布が超粒状斑流によって掃き寄せられた結果という考えを支持する。一方で、強度の強い水平磁場は、収束流領域にも発散流領域にも分布していることが分かった。この結果は、静穏領域における光球の垂直磁場と水平磁場の分布を生み出す機構に違いがある可能性を示唆し、静穏領域の磁場分布が単に超粒状斑流の掃き寄せで決まっているわけでは無いという新たな描像である。また、高精度磁場測定と日震学の組み合わせが重要であることを本研究は証明し、磁束収支計算と合わせることで太陽の内部を含めた磁束輸送のメカニズムを調べる目途をつけることができた。
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