本研究では、歪んだアルキン部位を2つ有するSondheimerジインの反応性を精査するとともに、新たなジインを合成し、生体分子修飾への応用を目指した。その結果、ジインを用いる2種のアジドとの連結反応(ダブルクリック反応)が生体分子修飾に有用であることを示し、一般性高い手法として確立した。さらに、高機能性ジインの創製を指向し、ジインの反応性を詳しく調べる中、予想外にも、芳香族アジドとの反応において、かさ高い置換基を両オルト位に有することで反応が著しく加速することを見いだした。さらに、この現象について詳しく調べた結果、両オルト位の置換基によってアジド基とベンゼン環との共鳴が禁止され、アジド基のクリック反応性が顕著に向上したことが分かった。かさ高い置換基の影響で反応速度が大きく低下することが常識であるが、本反応においてはその立体障害を凌駕するほど、アジド基を活性化している点で極めて興味深い。加えて、ジインとの反応のみならず、一般的なアルキンとの環化付加反応においても同様の傾向を示すことも明らかになった。一方、塩基触媒を用いるアルキンとの環化付加反応においては、かさ高い置換基による立体障害によって反応性が著しく低下することも分かった。この結果は、反応条件を使い分けることによって、かさ高いアジド基の反応性のON/OFFを制御できることを示しており、アジドの化学における重要な知見を見いだすことができた。以上のように、本研究の結果、ジインを用いる生体分子の化学修飾法を確立するとともに、アジド基の新しい反応性を引き出す手法を発見した。得られた結果は、アジド基の活性化法としてだけでなく、官能基を共鳴禁止によって活性化するという新しい概念の創出に繋がり得る極めて重要な知見である。
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