次世代太陽電池として注目されている有機太陽電池の変動効率は、最近の料開発の進歩により、8%程度に達している。10%の壁を超えるには、新材料の探索に加え、精密なデバイス界面制御:(1)高秩序ドナー/アクセプター界面の作製と応用、(2)有機分子ドーピング・基板仕事関数制御による界面電子構造の制御が重要となる。今年度は当初、上記(1)に関する計画を進めるはずであったが、界面電子構造研究の急速な進展を踏まえ、上記(2)に関する研究を前倒しで進めることにした。 まず、高移動度を示す有機分子:ピセンを、ITO/銅フタロシアニン(CuPc)/フラーレン(C_<60>)/bathocuproine (BCP)/AL構造の太陽電池のうち、CuPc薄膜にドープすることで、短絡電流・フィルファクター(FF)が改善されることを明らかにした。X線回折でピセンドープされたCuPc薄膜を調べたところ、ピセンのドープによりCuPcの結晶サイズが増加することが分かった。これは、新しいドーピング効果である。現在、電子構造の観点からこのドーピングの機構を解明するため、別途立ち上げた超高真空対応のケルピンプローブ(KP)と紫外光電子分光により同界面の正孔輸送準位の直接観測を行う予定である。 また、基板の仕事関数がドナー/アクセプター界面の電子構造に与える影響を調べるため、AlOx基板・ITO基板上に作製したCuPc/C_<60>界面をKPで調べた。仕事関数が小さいAlOx基板の場合、同界面で発生するバンドの曲がりが著しく大きくなるという、興味深い現象を見出した。このことから、低仕事関数のITOを基板に用いると、(a)開放端電圧が大きくなる、(b)自由キャリアは電極に輸送されにくく、FFが低下する、という重要なデバイス設計指針を提案できる。今後、低仕事関数のITOを用いた太陽電池の特性を調べ、この指針の妥当性を確認する予定である。
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