22年度の研究は、新しいケイ素反応剤の合成とそれを用いた還元的アルキル化反応への適用という2つの研究を相互に進めていった。ケイ素上をアルキル、ベンジル、アルコキシ基などの官能基で修飾したシランを合成したが、これらとエステル、ルテニウム触媒存在下ではシランから2つのヒドリドが反応した結果であるアルコールへの還元反応は進行するものの、対応するアルキル化体は得られなかった。そこで、エステル、シラン、ルテニウム触媒に加え、電子豊富な芳香族化合物を基質として加えたところ、芳香環のエステルへの付加、続く還元が起こり、目的とする還元的アルキル化反応を達成した。つまり、還元剤としてのケイ素(シラン)とアルキル源としてのケイ素を分子内に同時に存在させなくても、当初の目的である還元的アルキル化を達成できることが判明した。これは、当初想定された系よりも、特殊なケイ素反応剤を合成することがないという点で、圧倒的に実用的な方法である。また、エステルをアルキル源として液晶材料などに有用なアルキルベンゼン類を合成する反応は、対応するアルキル金属とハロゲン化アリールのクロスカップリング反応からの合成とは違い、反応後に大量の金属残渣やハロゲン残渣が生成しない点で環境調和型反応であり、今後優れた方法論となりうる。 23年度は、上記電子豊富なベンゼン環の導入以外に窒素をはじめとする様々な求核剤を還元的アルキル化に適用できるかを検討していく。また、基質に不斉源を導入し、還元の過程でラセミ化が進行しないかどうかを確かめる。
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