アルキル化反応は現在様々な方法があるが、その殆どがハロゲン化アルキルを用いる反応であり、エステルなどのカルボニル化合物を還元しながらアルキル化反応を行うことは困難であるのが現状である。エステルは、化学修飾しやすく、また、官能基耐性も高いため、もしこの官能基がアルキル化剤として使うことができれば有機合成上非常に有用な反応となる。そこで、このような達成の難しい反応を、還元剤とアルキル化剤の2つの機能を持つ二核ケイ素反応剤で達成することを検討した。その結果、エステル、二核シラン(Me_2HSi-O-SiMe_2H)、ルテニウム触媒に加え、アンモニア等価体であるトシルアミドを基質として加えたところ、エステルの還元、続くアミドの付加が起こり、還元的N-アルキル化反応が進行することを見出した。これは、エステルをアルキル源とする新たなタイプの反応であり、アルキルアミン合成の新たな選択肢の一つとなる重要な発見である。この反応は系中で二核ケイ素反応剤が生じ、円滑に"エステルから還元で生じたアルキル基"が窒素上に導入されることで反応が進行する。これは、当初想定した"二核ケイ素反応剤の機能性"に合致し、見事に反応性を具現できた。さらに、この反応を応用することで、アザシクロアルカンやスピロアザサイクルといった天然物アルカロイド類に見られる骨格合成に適用可能と期待している。本反応には、光学活性エステル(エステルのα位に不斉点を持つ化合物)を原料にすることも可能であり対応する環化反応を基質の光学過剰率を100%保持したまま行うこともできる。 さらに、これとは別にルテニウムシラン系をビニルエーテル(CH_2=CR'-OR)に適用すると、転位生成物(R-CH_2CR'O)が得られることが分かった。ビニルエーテルからケトンやアルデヒドを温和な条件で合成できる方法として期待できる。 以上、2年間の研究では、二核シランの反応性を用いて、ベンゼンのアルキル化、窒素の1、3級アルキル化、含窒素環状化合物、ビニルエーテル転位反応を達成することができた。
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