研究概要 |
本年度は有機電界効果トランジスタ(Organic Field-Effect Transistor,OFET)型メモリーを対象とした評価に先立ち、一般的な構造のOFETを作製し、赤外およびラマン分光法を用いて活性層(有機半導体層)を評価した。ラマン分光法を用いた評価では、顕微ラマン測定装置を用いることで、OFETの駆動前後に微小領域において有機分子の配向の変化に関する知見を得ることを目指したが、配向の変化を示すような顕著な結果が得られなかったため、より感度の高い赤外分光法を用いた評価に切り替えて実験を進めた。具体的には、OFETの電気特性を赤外分光器中で測定できるような治具を製作し、電気特性の測定と赤外スペクトルが同時に測定できる測定系を立ち上げた。この同時測定の過程で、Pentaceneの赤外スペクトルの面外成分がドレイン電流を流す時間に伴って変化することを見出した。具体的には、電流を一定時間流した後のスペクトルから初期スペクトルを引いた差スペクトルが微分形として現れた。この変化は面外成分のスペクトル幅の変化やシフトが生じていることを示唆している。電流が流れることによるジュール熱によるスペクトル変化も同様な結果となることが考えられるが、ここで見出した変化と温度による変化は異なるスペクトル変化となることは検証済みである。 現状ではこのような電流を有機半導体層に流すことによるスペクトルが変化するという報告例はなく、量子化学計算等と組み合わせることで変化が半導体層のどのような構造変化によるものかを明らかにし、OFETの高性能化への指針としていきたい。 さらに、既存の報告にない材料系を用いたOFET型メモリーの駆動にも成功し、現在、追試験とデータの補完をおこなっており、これらのデータが揃い次第、投稿論文として仕上げる予定である。
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