近年、スピン角運動量の流れである「スピン流」が注目を集めており、スピン流と磁化の相関の理解が基礎および応用の観点から重要な課題となっている。本研究課題では、人工的に制御されたねじれた磁気構造におけるスピン流の効果に着目し、空間的に変調された磁気構造におけるスピン流の効果を系統的に調べるためのモデルケースを構築する。 今年度は、「(1)人工制御したねじれ磁気構造を有する金属多層膜の成長」、「(2)数値計算による磁気構造の解明」、および「(3)ねじれ磁気構造の強磁性共鳴周波数の評価」に関して研究を遂行した。薄膜試料として、ソフト磁性体であるパーマロイ(Py)層とハード磁性体であるFePt層を積層化した交換結合スプリング薄膜をスパッタリング法により作製した。この薄膜の磁気特性を評価したところ、FePt層との交換結合を利用することでPy層内にねじれた磁気構造が形成されることを確認した。また、得られた磁化曲線を数値計算の結果と比較することにより、Py層内のねじれ角などの磁気構造を明らかにした。さらに、コプレーナ導波路とネットワークアナライザを用いてPy/FePt積層膜の強磁性共鳴周波数を調べたところ、ねじれ磁気構造を形成する磁場領域において、共鳴ピークのブロードニングや周波数シフトなど、ねじれ磁気構造に起因する特異な挙動が観測された。このことは、ねじれ磁気構造内における有効磁場が空間的に変調されていることを示唆している。以上の結果は、今後ねじれ磁気構造とスピン流との相関を明らかにする上で重要な知見となる。
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