研究概要 |
江戸時代後期における江戸町人地の屋外生活空間での夏季と冬季の熱環境の評価を目的に,平成22年度は,下記4テーマに関する研究を実施した。 1)夏季と冬季の代表気象の特定:地図および史料より,江戸時代後期から明治40年代まで,旧江戸町人地および気象データ観測点の東京気象台周辺では,計測データに影響を及ぼす大きな変化がないことを確認した。その上で,明治23年から明治33年までの11年間における夏季および冬季晴天日の気象データから,当時の東京の気象を把握し,数値シミュレーションによる熱環境の解析に用いる代表日を特定した。 2)夏季における対象地の気流解析:対象地は江戸湾に近く,堀と水路にも囲まれるため,それらの地勢を再現した上で,上記1)で把握した気象データを元に対象地である京橋地区の表通りと町屋敷内の路地における気流分布を,ネスティング手法を適用して数値シミュレーションで解析した。なお気流解析には時間を要するため,冬季の気流解析は現在作業中である。 3)夏季における居住者の作業量と着衣量の特定:学位論文で明らかにした居住者の夏季一日の生活行動に基づき,居住者の服装を史料より設定した上で,居住者の作業量と着衣量を既往研究より特定・算出した。また冬季も同様の作業を行うため,当時の史料を精査・選定する作業も行った。 4)冬季における対象地の表面温度分布の検討:史料より夏季と冬季での建物の変化を把握した上で,シミュレーション用3D-CADモデルを修正し,上記1)で把握した冬季の代表日における対象地の表面温度分布を,数値シミュレーションより算出した。結果,熱を溜め込まない江戸町人地では,冬季においても夜間のヒートアイランド現象は発生せず,近年問題となっている亜熱帯圏の生物の越冬は困難であることを確認した。 平成23年度は対象地の気流分布を解析した上で,熱と気流の連成解析を行う予定である。
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