研究概要 |
本年度は主に,前年度に提案した確率共鳴を引き起こす単純なロボットの行動則について,そのメカニズムの理論的な説明を行った.この行動則は,状態が改善したかどうかという2値の情報によって次時刻の行動を生成するにも関わらず,その行動によって生成される状態遷移は状態の評価値の勾配情報を確率的に反映できる.そのため,本研究計画の目的である「冗長な2値入力信号を用いた統計的制御」において重要であると考えられる.本研究の成果はPhysical Review Eに採録され,行動則の新規性,そのメカニズムの理論的背景の妥当性について十分な評価が得られた.また,多自由度を有する筋骨格ロボットアームへの適用も行い,国際会議においてその有用性を発表した. 本研究計画のもう一つの目的である「確率共鳴を用いた複数センサによる微弱信号の検出」については,確率共鳴を生じさせるためのセンシングパラメータの最適化に取り組んだ.従来,確率共鳴の工学的利用は入力信号(センサからの連続値出力)と出力信号(2値化を行う閾値素子の出力)の間の相関を用いてその現象の有無,強度を評価することで行われてきた.しかし,入力信号が既知であるとする前提は,確率共鳴を利用して微弱な信号を検出するまでもなくその微弱な信号が既知であることと同義であるため,工学的利用において致命的な問題になり得る.それに対して本研究では,単一の現象(力,変位など)を観測する複数の同等なセンサを仮定した場合,それらからの入力信号(複数センサの連続値出力)が未知であっても,出力信号(複数の閾値素子の出力)の間の相関で確率共鳴の強度評価が可能である事を理論的・実験的に示し,その成果を国内会議において発表した.
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