研究概要 |
本研究では電子ビーム蒸着装置を用いて金属薄膜を作製し,電子線描画装置を用いてPy/Cu/Py非局所スピンバルブ構造を作製した.作製された素子を用いてスピン流を注入し,スピンシグナルの検出を行った。得られるスピンシグナルはPy/Cu界面のスピンコンダクタンスに大きく影響されるため,Py/Cu界面をクリーニングすることにより,スピンシグナルの最適化を行った.ArイオンミリングによってPy/Cu界面をミリングし,ビーム電圧および時間に依存したスピンシグナルの測定を行った.スピンシグナルは,ビーム電圧および時間に依存して増大し,ある強度または時間を越えると,減少する傾向を示した,これはミリングによって,Py/Cu界面の酸化物などの不純物が取り除かれ,スピンコンダクタンスが増大したと考えられる.長時間または高い電圧のArイオンに晒された場合,界面において欠陥を生じてしまうため,スピンシグナルが減少してしまうことが考えられる.次に,熱処理を施すことにより,スピンシグナルを増加させることを試みた.4×10^<-6>Paの真空下において試料を300度で1時間加熱し,その後室温および低温(77K)においてスピンシグナルの測定を行った.その結果,熱処理前に比べて,スピンシグナルはおよそ2倍以上増加した.ミリング時間が短い場合,または長い場合においても熱処理によるスピンシグナルの増大効果がみられたことから,熱処理の寄与は界面の欠陥の除去だけでなく,その他の寄与が考えられる.Cuの電気抵抗を熱処理前後で比較した結果,熱処理によってコンダクタンスの値が1.5倍程度増加した.そのため,熱処理によってCu内のスピンコンダクタンスが増加し,結果スピンシグナルの増大へと寄与したと考えられる.今後材料においても最適化を行うことにより,スピンシグナルはさらに増大することができると考えられる
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