研究概要 |
固体酸化物形燃料電池(SOFC)の長期作動安定性にとって重要課題である、空気極(カソード)のクロム被毒問題の解決を目指している。申請者らは、既存材料(LSM)を用いた過去の研究において、世界で初めてクロム被毒・劣化現象の概要を明らかにした。本研究は、これを発展させ、耐クロム被毒カソード材料を創製するため、電極材料種による被毒・劣化挙動を解明することにより、異なる電極材料であっても、クロム被毒・劣化過程と支配因子を予測できる系統的な理論を構築する。 当該年度(1年目)は、既存のカソード材料(LSM,LSCF,LNF)を用いてクロム被毒・劣化現象の比較を開始した。通常のセル試験は1000時間程度(約1カ月半)を要するが、本研究では、試験時間を短縮して材料種類の影響を比較できる加速試験条件(カソード過電圧条件)を決定した。この結果、SOFCにとって比較的低温である700℃においても、150時間程度(約1週間)の短時間でクロム被毒・劣化現象を加速的に起こし、材料による差を比較研究することが可能になった。また、セル試験後のSEM-WDXによる微細構造変化の観察、クロム析出分布の精密測定の手法を確立し、電極反応場へ偏在して析出するクロムの定量的な比較を可能にした。さらに、クロム蒸気の移動、析出挙動(濃度分布)を定量的に解析するためのシミュレーション手法の開発を進めている。 次年度は、カソード材料中に混合(コンポジット化)する酸化物材料や、微量添加元素などを含めて、材料種による被毒・劣化挙動への影響を解明することにより、異なる電極材料であっても、クロム被毒・劣化過程と支配因子を予測できる系統的な理論を構築する。当該研究によって、電極反応メカニズム解明に有用な知見が得られることから、学術的な発展に寄与する。また、耐クロム被毒カソード材料の創製により、SOFCの耐久性が飛躍的に向上し、分散型電源として普及、資源の枯渇および地球温暖化問題の解決に大きく寄与するので、工学的にも極めて意義深いものである。
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